【美山かたり】

vol.13

今年の夏は見逃せない 火と光の饗宴 美山の上げ松(松上げ)Age-matsu

 夜8時、太鼓と笛の音とともに、松明を持った行列がやってくる。暗闇のなか振り子が松明を勢いよく振り回すと、たくさんの火の輪が浮かび上がった。天高く放り投げられた炎が、次々に弧を描きながら山里の真っ暗な夜空に舞う。降り注ぐ火の粉のなか、松明を拾っては投げ、また拾っては投げ、やがて誰かが投げた炎の矢が上空にかかげられた「もじ」と呼ばれるカゴにフワリと入ると、祭りはいよいよクライマックスへと近づく。「もじ」が勢いよく燃え始めると、灯篭木(とろぎ)が炎のなかに倒され、「うぁー!」と歓声が上がる。上げ松の振り子と見物客たちが、爽快な一体感を味わう瞬間だ————————

 この迫力のある神事は、毎年8月のお盆頃に行われるもので、「上げ松」または「松上げ」と呼ばれるものです。(鶴ケ岡地区では「上げ松」、知井地区・芦生では、「松上げ」と呼ぶ。)無病息災、五穀豊穣を祈願して火の神、愛宕神社(京都市右京区)に供える行事として、古来より美山町で伝承されてきた火の祭りで、昭和63年に京都府無形民俗文化財に指定されています。

火の神を畏れ、感謝する神事

 美山は「山のまち」。昔から、多くの村人が山に木を植え、育て、山仕事で暮らしてきました。火は人々の暮らしになくてはならないものですが、あらゆるものを焼き滅ぼしてしまう恐ろしい魔物でもあることも昔の人々は知っていて、そのため愛宕の火の神を鎮める行事として、「上げ松(松上げ)」が行われてきたのでしょう。多くの家には、現在も「愛宕祀符 火廼要慎」と書かれた愛宕神社のお札が貼られ、火の神への畏敬の念を持ち続けています。また「愛宕講」として、集落の代表が愛宕神社にお参りし、各家のお札をもらってくるという慣習も続けられています。また、京都北部から若狭にかけての山間地域「広河原」「久多」「花背」などでも松上げと同様の祭りが行われています。

子供も活躍!鶴ケ岡・盛郷の上げ松

 鶴ケ岡地区では、盛郷・殿・川合の3か所で「上げ松」が行われていますが、盛郷地区の「上げ松」は、他の地区とは少し異なり、灯篭木が2本建てられます。約20メートル超の大人用と少し低い子ども用です。昔は、集落総出で支え棒を使いながら灯篭木を人力で少しずつ立ち上げていましたが、今はクレーンを使って吊り上げるとともに、立ち上げ後に高さが調整できるように作られています。

 「もじ」に投げ入れる松明も、大人用と子ども用があります。1センチ角の松の木片を、大人用は、約20センチメートル、子ども用は約15センチメートルの長さで、直径約6~7センチメートルに針金で束ねて作ります。振り回すため1メートルくらいの紐が付けてあり、振り子一人につき、2~3個を各自が準備して、祭りに参加します。

祭りが始まると、振り子それぞれが、松明に火をつけて、ひもを持って振り回しながら、「もじ」をめがけて次々に放り投げていきます。「もじ」に火が点き、籠の中に立てられた愛宕神社のお札「御幣」が落下してほぼ燃え尽きるまでの火の饗宴なのです。落ちてきた「御幣」は、祭り当番が拾って、それぞれの集落のお社に収め、1年間の無事を祈願します。ちなみに一番に「もじ」に松明を入れた人は、名誉であるのはもちろん、清酒2本が進呈されるとか。今年は、誰がどれくらいの時間で「もじ」に松明を投げ入れるのでしょうか。振り子も我こそは!と頑張りますし、家族や町内の人々の応援にも熱が入ります。

芦生の松上げ

 美山町内では、鶴ケ岡地区以外にもう一か所、同様の火祭をおこなっているところがあります。知井地区の芦生(あしゅう)、京都大学芦生研究林の手前にある集落で行われる「松上げ」です。口芦生の河原で開催され、灯篭木や松明の形、火のつけ方なども同じですが「もじ」を「傘」と呼んでいます。
 祭りの準備は、松上げを行う向いの河原へ行くため、川の石を集めて土台にして、そこに川を渡る丸太橋をかけるところから始まります。丸太の上に板をのせた桟橋を渡って河原へ資材を運び、灯篭木や傘を作っていくのです。
午後8時、いよいよ「松上げ」の始まりです。暗闇のなかで、川面に反射する松明の光が、より幻想的な夜に誘ってくれます。松上げは、集落の道路から見学できます。川の流れとともに、ゆっくりと流れる時間を体感してみてください。松上げのあとは、みんなお寺に集まって、往く夏を惜しみながらの盆踊り。老いも若きも一緒に踊ります。ぜひ、あなたも踊りの輪のなかへ! 

一般参加できるものも!今年の開催日程は?

◎鶴ケ岡地区で開催される「上げ松」

*8月19日(日)午後8時から
美山町殿(との)地区河原(たなせん 向かい側)

住所:京都府南丹市美山町鶴ケ岡馬場 Googlemap
※19日開催予定の殿地区では、向かいの売店「たなせん」前で恒例の盆踊り大会も同日に開催されます。浴衣で参加してみては? 

*8月24日(金)午後8時から
美山町川合(かわい)地区の河原

住所:京都府南丹市美山町川合 googlemap

*8月24日(金)午後8時から
美山町盛郷(もりさと)地区の河原

住所:京都府南丹市美山町盛郷松尾 Googlemap
※盛郷(もりさと)地区では、町内の方以外でも希望者は振り子として参加できます。当日、盛郷公民館へ午後7時半までにお越しください。(ただし、神事のため、男性のみ参加可能。また、身内にご不幸があった方はご遠慮いただいております。参加費用は、松明1個につき500円の実費負担。)

◎芦生地区で開催される「松上げ」

*8月24日(金)午後8時から
芦生の河原にて

住所:京都府南丹市美山町芦生 美山町芦生坂尻3 Googlemap
※今年は、「京都・美山 野生復帰計画」が芦生の暮らしを体験するツアー「芦生のいきかた盆×祭」で松上げの見学・体験が行われています。松上げの見学だけでなく、その祭りを支える住民の活動や、松明を一緒に作るなどの体験ができるツアーです。この機会にどっぷり芦生の松上げと地域の暮らしも一緒に体験してみてはいかが?
詳しくは 「芦生のいきかた 盆×祭り」芦生ハレとケ体験ツアー 8/23(木)~8/25(土)

オススメの持ち物&注意点

上げ松は暗闇で行われ、道路沿い、川沿いで観覧します。安全のため懐中電灯を持っていかれることをお勧めします。また虫除けスプレーも必須アイテムですよ!また、お盆を過ぎた8月末の美山の夜は、肌寒い日もあります。当日のお天気にもよりますが、上から羽織る服があるといいかもしれません。また当日、専用の駐車場は設けられていないので、交通の支障にならないところに駐車をお願いします。


《取材協力》
*盛郷地区の「上げ松」に関しては、大秦靖弘さんに資料提供いただきました。
*芦生地区の松上げの写真は、「ちしゃの木庵」下村 眞さん、「芦生山村活性化協議会」川鰭 優さんにご提供いただきました。

文 美山かたりライター 下伊豆かおり